2012年6月30日

アメリカの医療保険に関する最高裁判所の決定

先日の木曜日に最高裁判所は「全ての住民が保険を持たなければならず、それを拒否する場合には罰金を支払わなければならない」とする新しい法案を合憲とする決定を下しました。この決定は、最高裁判所が政治的な駆け引きとは独立した機関であることを証明したと言えるものだと思います。

現最高裁判所の主席であるジョーン・ロバーツ判事は、4人の保守的な判事達とともに、アメリカの大きな懸念である堕胎、同性愛、口径避妊薬等関する保守的な判決を長期に渡って決定的にするために前ブッシュ大統領に指名されました。ところが今回の判決でロバーツ主席判事は、他の4人のリベラルな判事とともに、全ての住民が保険を持つ法案は合憲であると、保守派の思惑から外れた決定を下しました。

この決定を聞いて、前ブッシュ大統領の法務長官を務めたジョーン・アシュクロフトの件を思い出しました。アシュクロフトは、保守の中でもガチガチの保守で、それを見込んで前ブッシュ大統領が法務長官に据えた人物です。最高裁判所の台座のギリシャ風彫刻に女性の裸体があるということで、それに布を被せたという奇妙な行動を取った事もあります。

ところが彼は、当時大統領が極秘に進めていた一般国民を調査する計画に断固として反対していたのです。国民の極秘調査計画は違憲であるという理由からです。切羽詰まった前ブッシュ大統領の腹心二人は、胆のう手術直後のアシュクロフトの病室にまで押し掛けて、極秘調査計画の許可書に署名することを迫ったそうです。このエピソードが明らかになったのは、アシュクロフトが法務長官を辞任した後ですが、いくら自分を指名した大統領に迫られても、法務長官として違憲であると判断した計画には決して署名しない、上司よりも職務に忠実なプロ根性のようなものを垣間見ました。

ジョーン・ロバーツ判事も、今回保守的な判事の側について、医療保険法案を違憲とする事もできたはずですが、あえてそれをしなかった事によって、立法府や政治家の思惑は色々とあっても、最高裁判所はそれ自体の独立性を守る機関である事をあえて証明した形になったと思います。

アメリカが保守とリベラルで激しく対立する中、二人の極めて保守的な考え方を持つ人物は、利権団体や政治勢力に流される事なく、独自の判断を下したのです。どちらかのサイドに付く事なく、忠実に自分に与えられた任務を遂行する人々がいる限り、アメリカもまだまだ捨てた物ではないという気がします。



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