2011年11月10日

お腹が空いている人は…

私が初めてニューヨークで就職した頃、訳あってリッチモンドヒルという所に住んでいました。地下鉄のAラインの終点です。Aラインは、ニューヨークの地下鉄の中でも一番長い路線で、ブロンクス、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズの4つのボローをまたいで走っています。

マンハッタンで仕事が終わると、Aラインのダウンタウン行きに乗って延々と約1時間半ぐらいかけてブルックリンを通って、地下鉄は最後にクイーンズに入ります。途中にあまり良くない地域、つまり貧困のはびこる地域を通り抜けて行くわけですが、物乞いをする人やホームレスに食べ物を配るボランティアの人が社内を回ります。

そんな人々の中で、一人だけ、特に強く印象に残った人がいます。彼は、多分30代ぐらいの背の高い黒人でした。隣の車両からドアを開けて入って来ると、お決まりの文句を言いました。
「貧しい人々の為に、寄附をお願いします。少しの金額でもいいです。」
そう言って、お金を無心する人の殆どは、他人の為に使うのではなく、集めたお金を自分で使ってしまうのです。ところが、彼は続けて、
「もしも、食べないサンドイッチやリンゴなどを持っている人がいたら、寄附して下さい。お腹が空いている人には、バッグの中に食べ物を持っているので、あげられます。貧乏じゃなくても、ご飯を食べ忘れたとかでも良いですよ。」
と言って社内を見回しながらゆっくりと歩いていました。そして何気なく、車両の隅の方に一人で座っていた多分10代後半か20代前半ぐらいの若い黒人の女性の隣に座りました。丁度私が座っていた斜め前辺りだったので、会話が聞こえました。
"Hey, Sis. Where are you going?"
とにこやかに、気さくに話しかけました。身なりなどから、もしかしたらその女性がホームレスではないかと気にかかったのでしょう。ただ、相手の自尊心を傷つけないために、"Do you want something to eat?"とは、最初から切り出さないのですが、もしもお腹が空いているようなら、何か置いて行こうと思ったのだろうと思います。その女性は、背の高いハンサムに声をかけられて、まんざらでもないような表情を浮かべて会話していました。

女性のホームレスは、男性のホームレスに比べて、レイプなどの被害にあう率が高いので、安全を確保する為に地下鉄の社内で寝ると聞いた事があります。また、若い女性のホームレスは身なりも普通なので、パッと見ただけでは分からないのだそうです。

ホームレスの全てが物乞いをしているわけではありません。たとえお金がなくても、多くの人は自尊心が邪魔して、スープキッチンやフードパントリーに行けなかったりします。ここ数年の不況で、数年前までは働いていて家も買ったけれど、今はその家のローンを支払うだけで精一杯で、食べ物があまり買えないという家庭は少なくないと思います。

最近ジョン・ボン・ジョビが作った任意の金額を支払うレストランというのも、素晴らしいアイデアです。うまく表現できないのですが、相手の自尊心を傷つけない、相手の立場を尊重する、自己申請をあえて信用するというのは、とても大切な事だと思いました。



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