2011年11月27日

人間の躾、動物の躾

私が中学生だった頃は、教師が生徒に体罰を加えるのが珍しくありませんでした。戸塚ヨットスクールの死亡事故も起きる前だったし、体罰も躾のうちという風潮がまだまだ強かった時代です。私の通った久木中学校が特に荒れていたというわけではなかったと思います。普通の公立中学で、生徒の学力の差も大きかったし、親の経済力の差も大きかったと思うので、どちらかと言えば様々な生徒がいる層の厚い学校だったと思います。

私の家庭はと言えば、子供の教育に熱心だったわけでもないのですが、親が子供を叩いてしつけるという環境でもありませんでした。まだまだ和気あいあいとした雰囲気の残る小学校では体罰の類は普通はないので、中学に入った途端、竹刀を持ち歩き、体罰を加える体育教師を目にして、妙に大人になったような気がしたものです。

最近、友人が親戚の家を尋ねた時に、その家の子供達は体罰で言う事を聞く習慣が付いているので、友人が言葉で注意しても全然言う事を聞かないという事を言っていました。アメリカの学校では決して体罰を加える事はないので(体罰は傷害事件として扱われるため)子供達は先生の言う事も聞かないそうです。

私は犬を飼った事がないのですが、テレビを見ていた時に犬をしつけるエキスパートという人が出ていました。オプラの友人で Dog Wisperer と言われている人です。素行が悪い大型犬の躾のポイントは、犬に飼い主がボスである事を知らしめ、服従させるという所にあるそうです。犬には論理が通じないので、基本的には体罰で憶えさせます。それゆえ、飼い主の弱みや優柔不断な態度は決して犬に見せてはならないのだそうです。それが自然界に於ける動物集団の法則なのだそうです。もしも、犬が飼い主や飼い主の家族や友人に噛み付いた場合には、もう危険なので安楽死させるそうです。

様々な大型のペットに襲撃された悲惨な事件は、たびたびニュースになります。飼い主と大型ペットの主従関係は、飼い主の力が絶対的な間はうまく行っても、飼い主が老化したり病気になり、力のバランスが微妙になった時に、ペットが今までのボスを抹殺して自分がボスになろうとするようです。

人間の子供の体罰も犬の躾と似通った理論なのだろうと思います。子供は体罰を恐れて言う事を聞くだろうし、手っ取り早い事もあると思います。ただ、人間の世界は動物の世界よりもずっと複雑です。必ずしも体力的に優れたものが頂点に立つわけでもなければ、頭の良いものが頂点に立つわけでもありません。職業も細分化されている為に、様々なプロフェッショナルが存在し、それぞれの個人の興味や特色を生かした職業に就く事ができれば、社会に貢献できるし、集団のトップに立つ事はなくても、十分に満たされた一生を送る事ができます。このような複雑な社会構造は決して体罰で教える事ができません。

子育ては、自分がやってみて初めて分かったのですが、迷路のようです。明らかに才能があると思われる私の息子は、強い学習障害があるために、未だにその潜在的な能力を発揮できずにいます。息子との日々の戦いに疲れ果て、夫が苛立ちを募らせた結果、息子のお尻を叩いた事もあります。おそらく、あの時が最悪だったと思います。息子は更に反抗し、萎縮し、劣等感を募らせて行きました。

それから少しずつ、親も勉強し、学校との協力体制も整い始め、ようやく今まで失った分をこれから取り返そうとしている所です。このような方向転換が出来たのも、洞察力に優れた息子の担任と、息子の才能を決して疑う事のない夫の強い信念に依るところが大きいと思います。

子どもは個性を持って産まれて来ます。子どもの教育や躾は、それぞれの子どもに合わせて行われるべきで、枠からはみ出してしまった子どもを体罰で矯正しようというのは、子どもの個性を理解しようとせず、物事を手っ取り早く単純に片付けたい親や教育者の怠慢だと思います。自分の感情や状況を上手に言葉で表現する事のできない子どもを理解するのは至難の技ですが、それを行う価値は十分すぎる程にあります。



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2 件のコメント:

  1. こんにちは!たまたま寄らせていただき、読ませていただきましたが、とてもいい記事ですね。
    しかも久木中学が出てきて??、ビックリ!
    私は出身は東京なのですが、最も最近日本で住んでいたのは、逗子です。私は逗子が大大大好きです!!!(すみません、全然本題とは関係ないのですが・・。今は西海岸に住んでいます。)

    世の中には、単なる学習の物差しでは計りきれない才能がたくさんあると思います。そういう人たちがフラストレーションを感じずに、思ったことを自由に表現し、活き活きできるような柔らかい世の中に作っていく必要があると思います。
    心の善なる部分からではなく、力が物を言う世界は、いずれ滅びると思います。

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    1. 遅くなりましたが、コメントをありがとうございます。どうやって返信したらいいのか、今まで分かりませんでした。

      私のように、逗子近辺で生まれ育った人は、のんびりとした生活が身に付いている為に、ニューヨークではなくウェストコーストに居着く傾向があるようです。ニューヨークに多いのは関西出身の方々です。

      また、たまに覗きに来て下さい。

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