アメリカで使われるabortionという言葉は、人工妊娠中絶ではなく堕胎と訳されるそうです。中絶は「女性が妊娠を途中で中断する」という意味であるのに対して、堕胎は文字通り「胎児を堕とす」という意味です。医学的にみれば、産婦人科で行われるのはどちらも全く同じ事なのに、日本語では女性からの視点、英語では胎児からの視点である事に気づきます。
日本でも人工妊娠中絶にまつわる様々な罪悪感や非難が水子霊に代表されるような民間の言い伝えに現れていますが、アメリカで中絶に反対する人々の主張の殆どは生命を神聖視する強いキリスト教の思想を反映しています。人命は尊いものであり、それを故意に取り上げる事はどんな理由があっても(強姦や近親相姦の場合も)許されないと考える人々もいます。たとえ不幸な出来事が妊娠につながっても、その時点で新しい命は神に祝福されたのだから生まれてくるべきであると考えられるからです。
勿論アメリカ人のすべてが熱烈なキリスト教信者という訳でもなく、女性や都市部に住むアメリカ人には、日本人と似たような考え方をする人も沢山います。最近の世論調査を見ると、堕胎を法的に禁止すべきであると考える人々と、妊娠を継続するか中断するかは妊娠している女性本人のみに最終決定する権利があると考える人々の割合は五分五分です。
プロライフ(胎児の人権を主張する)派とプロチョイス(女性の選択権を主張する)派の違いを箇条書きにすると次のようになります。
プロライフ
- 受精卵は人間なので、人権をもつ
- 堕胎は法的に禁止すべきである
- 強姦や近親相姦で妊娠した場合の堕胎に関してはプロライフ派でも意見がわかれる
- 不妊治療で使われずに残った受精卵も人間なので、幹細胞の研究に使ってはならない(ブッシュ大統領はその理由で国費の幹細胞研究を禁止しました)
- 避妊は神の教えに反する
プロチョイス
- 受精卵は人間ではない
- 人工妊娠中絶は、胎児が体外に出て生き延びる事ができない期間は合法的に行われるべきである
- 積極的に避妊を行い、望まない妊娠は極力避けるべきである
- 避妊と人工妊娠中絶の費用は保険でまかなわれるべきである
今年末の大統領選挙は、経済、医療保険の他に人工妊娠中絶も争点の一つとなるようです。
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